#16「小松菜奈」
小松菜奈は同世代の女優の中で一番演技が上手いと思う。
彼女を最初に知ったのは、『渇き。』(2014)の予告編だった。予告だけでもなかなかサイケデリックな雰囲気だったので本編はまだ観ていない。それでも予告で観た彼女の高笑いに、只者ではないオーラを感じられた。今でもあの高笑いが忘れられない。
まずは『予告犯』(2015)と『バクマン。』(2015)を観たが、この時はまだ彼女の演技よりも作品のストーリーの方に重きを置いていた。『予告犯』は謎の集団「シンブンシ」と女刑事の攻防を、『バクマン。』では2人の男子高校生が週刊少年ジャンプのテッペンを目指す物語を中心に観ていた。彼女の演技をしっかり見たのは、おそらく『溺れるナイフ』(2016)が最初だったと思う。
少女漫画原作の青春ラブストーリー。東京で雑誌モデルをしていた少女・夏芽が、父の故郷である田舎町に引っ越すことになったが、田舎での生活に退屈な日々を過ごしている。そんな彼女が神主一族の跡取り息子の少年・コウと出会い、不思議な魅力に心を奪われる。一方、コウも夏芽の異質な美しさに徐々に惹かれていく…というストーリー。言わずもがな、コウを演じたのは菅田将暉である。後にこの2人が夫婦になると聞いた時は、大変驚いたことだ。
この時の小松菜奈は、前半と後半では違う表情を見せていた。前半は都会から引っ越してきた洗練された少女で美しさを放っていた。しかし、ある事件を境に、後半は地味でおとなしい少女になる。前半に見せていた美しさが取り除かれ、人間らしい弱さ・繊細さを見せる。この落差が凄い。
夏芽とコウが二人乗りをする場面で「この海も山もコウちゃんのものだ!私もコウちゃんのものなんだ!」と夏芽が叫ぶところがある。ここの場面で、彼女の演技をもっと見てみたいと思ったのだ。あのセリフにおける彼女の表情や声が、強く印象に残った。
以後、『坂道のアポロン』(2018)から『余命10年』(2022)まで、気になった作品は観るようにしている。特に『坂道のアポロン』は我が地元・長崎が舞台ということで、あの小松菜奈が(役で)佐世保弁を話すということが嬉しくてたまらなかった。いろんな作品に出演しており、どの作品も存在感がある。ある意味、小松菜奈は信頼できる女優のひとりだ。これからも彼女のいろんな演技をもっと観てみたい。